早見の掴んだ事実は偶然ではあったものの、何か別の力が働いているのではないかと、少しオカルトチックな考えをよぎらせながら、五十鈴川はあのファイルを広げる。
「何ですか、その沢山のファイルは?」
早見が興味深そうに見入った。
「この中に今回の事件に関わっているはずの人物、大島一郎の闇があるんだよ」
「大島一郎の闇……ですか」
「今じゃ世間では名の知れたジイさんだ。しかしな、見る人が見れば、きな臭い人物なんだよ」
そう言いながら、五十鈴川はファイルのページをめくる。
「ジイさんとかきな臭いとか、すずさん、怒られますよ」
一瞬、ニヤけた顔をしたかと思うとページをめくる手が止まった。
「これだ」
ーー 山林の売買に関して ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
デイ・アンド・ドリームが、ここ一体の山林を買収するにあたり
幾人かの住民とトラブルを起こす。
トラブルの概要
その1 買収の条件が、取引成立後に改ざんされた形跡がある
その2 買収された区画が契約と大きく異なる
その3 買収計画を大島一郎が住民に持ち込み、彼に一任させる手法を取っている
その4 買収業者はデイ・アンド・ドリームであり大島一郎の名は明記されていない
その5 住民の一人、川神甚五郎との協議に於いてケガ人が出る
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多数の住民トラブルを起こした大島一郎だが、彼は買収業者に責任を負わせる形で被害者側だと主張
デイ・アンド・ドリームは倒産しているが、計画倒産の可能性がある
川神甚五郎はこの地域の住民であり、近所からの信頼も厚く住民側の代表となり大島一郎と対峙する
住民と大島一郎との協議にて大島側にケガ人が出る
警察が介入し刑事事件として扱い
被害者は大島一郎の秘書である沢木誠(サワキ マコト)
加害者は川神甚五郎となった
このころを境に住民達が川神甚五郎と距離を置くようになり
住民側のリーダーを失なった事で大島一郎への反発の声も少なくなっていった
川神甚五郎は程なくして失踪し、大島一郎はこの時期に国政へ出馬し当選する
〜 このトラブルについての考察 〜
大島一郎のデイ・アンド・ドリームへの関与はあるのか?
そもそも大島一郎の作った会社ではないのだろうか
大島一郎の国政への出馬、そして当選への流れは当然だったのか?
大金を手に入れた直後の流れはきな臭い
川神甚五郎の失踪の理由は、この土地に居づらくなった事が原因だろうか?
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早見がファイルに目を通しながら、五十鈴川を横目で見る。
「すずさん……これ……」
「青木さんが刑事人生をかけて作成したファイルだ。被害者に聞き込みを繰り返し警察資料を読み漁って作ったらしい」
「えっ、青木さん、刑事だったんですか、交番勤務で上司だったって、すずさん言ってましたよね」
「ああ、この大島一郎に入れ込みすぎてな、上(ウエ)の方から圧力が掛かったんだよ」
「……左遷ですか」
「まあ、そんなところだ。でもな、青木さんが真に迫ったからこそ捜査から外されたんだ。オレはそう思っている」
「上(ウエ)の方からって、警察組織も面倒くさい事が絡んでいるんですかね」
「さあな、今回の事件、自分たちの首を絞める事になるかもな」
「あちゃー、この船は泥舟でしたか」
いつもの様に茶々を入れる早見に柔らかい表情を浮かべる五十鈴川。しかしその目は真剣だった。そして、その表情に呼応するかのように早見は微笑んだ。
事件20につづく