鑑識の結果、放置されていた車は、ひき逃げをおこしたものと断定された。事故現場に落ちていた塗膜片が一致し、なによりも被害者の毛髪と血痕が残っていたのが決定打となった。
そしてもう一つ、車内にあった血痕は、水死体となった人物のものだった。事故の加害者と思われる人物が死亡した事で事故か事件なのかを断定する証拠が、また一つ減ることとなった。
数日が経ち、早見が何かをつかんだかの表情で話す。
「すずさん、免許証から遺体の身元を調べました。名前は
坂下 昭夫(さかした あきお) 32歳 市内でパソコンショップを経営してたようです」
「してたようですってのは、特定できていないのか?」
「いえ、2ヶ月程前から店は閉店になっているみたいです。その頃から自宅にも戻ってないようですね。近所の人もよくわからないって言っていました。あまり交流は無かったみたいですね」
「今時だな……ご近所さんの事情も知らないのか」
「まあ、そんなもんですよ。僕だってあやしいもんです」
早見の表情は、なぜか少し得意気だ。
「そんなもんかね……」
「すずさんの方は、何かわかりました? 大金の事とか」
「ああ、280万円がバッグにあった現金だ。そして、2ヶ月前に近くの銀行で、300万円を本人が引き出している」
「2ヶ月前っていったら、ちょうど閉店と重なりますね」
「そうだな。その時期に何かあるかもしれないな」
「坂下さんは、事故をおこした事を悔やんで自殺したんでしょうか?」
「いや、被害者が何度もひかれている事を考えると、殺意があったようにしか思えないがな」
「それもそうですね。それにあの大金もよくわかりませんしね……あっ、令状、取ったんでパソコンショップへ行ってみましょう」
早見がすでに家宅捜査令状を取っており、坂下のパソコンショップ店を捜索する二人。
「うわー! なんだ、ここ。パソコンショップって言うより、リサイクルショップですね。ほぼ、ジャンク品ですよ、これ」
「詳しいな、早見。オレにはよくわからんけどな」
「すずさん、そんなに年いってないんだから、ついてきて下さいよ、デジタルに」
ジャンク品に目をやりながら、早見は、そう言った。
そんな中、机の上に2枚の写真を見つけた。その内の一枚には、なんと被害者と坂下が二人並んで写っていた。そして、裏には、こう、添えてあった。
[ 河上啓一と共に蒼き湖にて ]
「すずさん、これは偶然ではないですよね」
「ああ、顔見知りだったって事か」
河上啓一が被害者の名前とすると、友人同士のトラブルとみるのが普通だが、五十鈴川は何か他の、別の何かがあるのではとの表情をしていた。
「もう一枚の写真、この女性は誰ですかね?」
これも坂下と二人。清楚な女性が写っている。事件とは無関係かもしれないが、坂下の事は知っているかもしれない。
少し、前進したかに見えた事件だが、まだ霧は晴れそうにない。