写真の裏書きにあった「河上啓一」という名前を頼りに、五十鈴川たちは被害者の身元の特定を急いだ。
それと並行して「坂下昭夫」の身辺調査も引き続き行っていた。また、彼の直接の死因は致死量になる農薬を接種したからという鑑識の結果も出ていた。
車内に残された血痕は、事故を起こした時に付いたものと考えられたが、検死では大きな外傷が無かった為、事故時にハンドルにぶつけて「鼻出血」いわゆる「鼻血」を出したのではないかと推測された。
——そして。
「すずさん、被害者と河上啓一が一致しましたよ!」
「聞き込みからか?」
「いえ、SNSです。被害者の河上啓一の写真がアップされていたんですよ。ネットビジネスセミナーの集合写真にね」
「ネットビジネスセミナー?」
「ええ、全く別件なんですけどね。そのビジネスセミナーが悪質な詐欺だったもので、摘発されたんですよ。そのセミナーの名簿に名前があったんです。そしてその業者が大々的にSNSで発信してたんですよね。ご丁寧に写真まで撮って」
「その写真と名前、そしてパソコンショップで見つけた写真が繋がったってことか。ネット上のビックデータには、警察署のデータベースもお手上げだな」
「セミナーの参加者から裏付けも取れています。河上さんは、気さくな人だったらしく、よく覚えている人がいたんです」
パソコンを叩けば何でも出てくる時代になったが、それと引き換えに、人間の記憶は全てデータという形に姿を変えて、世界のどこかで眠っている。
「人の噂も七十五日」とは昔の話で、今ならば一度ネットに上がってしまうと一生、いや死んでしまっても消えることは無いだろう。
二人の男性の身元は判明したが、その関係と事故 ? の原因を語ってくれる第三者が必要になってきた。
そんな五十鈴川たちを知ってか知らずか、最初の交通事故から1ヶ月が経過しようとする時に、彼女は現れた。
「すずさん、坂下と一緒に写真に写ってた女性が来たって本当ですか?」
「ああ、さっき北署の南署長から連絡があってな。一連の事件の事で話したい事があるそうだ。とりあえず北署にいくぞ」
「はい、南署の北署長……じゃない、西署の東署長……でもなくて……誰?」
「わざとだろ。お前」
ニコニコしながら車庫へ向かう早見を尻目に、五十鈴川には坂下の死因が、やはり他殺に思えてならなかった。