刑事

蒼き湖の涙:事件6

一ノ宮真紀が話した事は事実なのか?

全てが作り話だとは思えないが、五十鈴川には腑に落ちない点がひとつあった。早見が口走ってしまった様に二人が写る写真からして「坂下昭夫」を知っているはずなのだ。しかし、彼女の表情からして本当に知らない様にも見えた……一ノ宮真紀からは再度、事情聴取を取ることになっているが、真相は未だ闇の中だ。

数日後、早見が慌ただしく五十鈴川の前に駆け寄り、資料を広げ出した。

「すずさん、事件の若宮と同一人物ではないかもしれませんが、これを見て下さい。ネットビジネスセミナーの名簿です」

五十鈴川が名簿に記された名前を目で追って行く。

<ネットビジネスセミナー名簿>

赤井、今田……遠藤……、河上啓一(カワカミ ケイイチ)…………小林……

!!……若宮良(ワカミヤ リョウ)…

「若宮か!」

「そうなんです。一ノ宮さんが言っていた人物と同じ苗字です」

「珍しい名前でもなさそうだが、アタってみる価値はありそうだな」

「ですね。実は、そう思って少し調べてみたんですよ。そうしたら、この男、セミナー仲間から借金があったようで、今は行方を眩ましています」

「借金か。河上啓一からも借りていた様だしな……」

「セミナー会員の写真に若宮良も写っています。これを一ノ宮さんに確認してもらえば、同一人物かは、はっきりします」

「そうだな。明後日、一ノ宮さんが来ることになっている。そこで聞くことにしよう。坂下昭夫の件もあるからな」

「わかりました」

早見との会話が終わるのを待っていたかの様に五十鈴川の携帯が鳴った。

「はい。五十鈴川です……はい……!……わかりました」

「すずさん。どうしました?」

「一ノ宮さんが、襲われた」

「えっ!で、彼女は!」

「いや、身辺警護で捜査員が張り付いていたから、負傷は無いそうだ。襲った人物も確保された。これから署に来るそうだ」

「よかった。で、その襲った男ってのはどんな奴なんでしょうね」

「……女だ」

「えっ!?」

「一ノ宮 真紀を襲った人物は女だ」

事件7へつづく