鑑識課。
捜査1課なら幾度となく足を運ぶ、事件の要となる部署。 歩きながら話す、二人の会話は、静かな廊下に響いていた。
「すずさん、封筒に入っていたのは、USBメモリだったんですよね」
「ああ、現場で見る事が出来なかったから、鑑識にまわしたんだ」
「何か臭いますよね」
「そうだな……臭うな……」
「気付きました ? さっき、餃子を食べたんですよね」
「…………」
「……って、聞いてますか、すずさん、ここツッコむところですよ」
早見の言葉が宙を舞う中、五十鈴川は、鑑識課の扉をあけた。
「あっ、五十鈴川さん。こっちです」
鑑識官の木村がパソコンに目をやったまま、二人を呼んだ。
「これですわ、USBの中身」
画面には、男女の写真が数枚と琵琶湖と思われる古地図が表示されていた。
五十鈴川が気付くのと同時に早見が言った。
「これ、一ノ宮さんと河上啓一、それに坂下昭夫ですよ。それと、このおっさん、国会議員の大島……」
「一郎だ。ベテラン議員だな」
五十鈴川が早見の言葉を補ったあと、間髪入れずに鑑識官の木村が相槌をうつ。
「おっさんは、マズいで、早見くん。壁に耳あり障子に目ありってな。おもろい言い方してると大事な時にポロっと出てしまうで」
「すみません、木村さん、気をつけます」
やけに、ものわかりがいい早見は頭を掻きながら、画面に映る写真を印刷しようとしていた。大島議員以外は、今回の事件に関わっている人物だ……と、いう事は彼も関係しているのか。誰ということもなく、それぞれが、きな臭さを感じていた。
「すずさん、大島議員に会ってみますか」
「いや、まずは一ノ宮さんに話を聞いてからだ。それに写真があるだけじゃ、大した話も出来そうにない」
「あと、この古地図やけどな」
鑑識官の木村は、印刷された地図をボールペンで叩きながら続けた。
「これは、琵琶湖周辺を描いた地図のコピーやな。それと、お寺の名前が入っとる。ざっと見て、20 いうとこやな。出どころはわからんけど、ちょっとマイナーな地図やで、これは」
「このお寺をあたってみれば、何かわかるかもしれませんよ、すずさん」
「そうだな。早見、そのお寺が実在するのか調べておいてくれ」
「りょ、了解です」
五十鈴川の指示に早見が「しまった、やぶ蛇だったか」という様な顔をして、返事をする。その後、鑑識官の木村と少し話をして鑑識課を出て行った。
被害を受けた、一ノ宮真紀に大きな外傷はなかったのだが、念の為、病院で検査を受けてから明日、事情を聞く事となった。
USBから出た古地図。そして事件に関係するであろう人物たちの写真。事件を解決する糸口になるか、五十鈴川は何か妙な違和感を覚えていた。