刑事

蒼き湖の涙:事件4

湖岸道路を北に向かうこと数十キロ、そこから市内へ入ると文字通り北署が見えてきた。

早見が車を停めようとした時、署から初老の男性が飛び出してきた。

「ダメ、ダメ、そこには停めんといて」

「えっ、ここダメなんですか」

きょとんとした表情で、早見が初老の男性に答えた。

「交通安全協会って書いてるやろ」

「えっ、専用なんですか、ここ」

「そういうこと。そやから、別のとこに……ん? 五十鈴川やんか」

「ど、どうも、ご無沙汰です」

「久しぶりやなあ、こんなとこまで来て、なんかあったんか」

「ええ、南署長にちょっと」

「ほぅ、事件やなぁ、そうかあ、まあ、頑張ってくれ。あっ、駐車場所、よろしくやで」

そう言うと、男性は署内に戻って行った。

早見が駐車場所を変えながら、不思議そうに問いかける。

「すずさん、今の人、知り合いですか」

「あぁ、オレがまだ交番勤務の時の上司だった青木さんだ。今は嘱託で、この北署の雑務をしているそうだ」

「ふーん、すずさんの上司だった人に、何なんですけど、いい印象持ちませんでしたよ」

「まぁ、そう言うな。彼は彼でいろいろあったんだよ」

「そうなんですか……てか、交通安全協会専用って何ですか」

「そのままだろ。そんな事、いちいち気にしてたら、やってらんないぞ」

「まあ、そうですけど……」

そんな会話をしながら、二人は南署長のデスクへ足を向けた。

「おはようございます。南署長、五十鈴川です」

「おお、来たか。早速やけど、あっちの部屋に彼女がいるから、行こか」

短い廊下の突き当たりにその部屋はあった。ドアを開けると黒髪の清楚な女性が座っていた。

「どうも、初めまして五十鈴川と申します」

「早見です」

「どうも、一ノ宮真紀(いちのみや まき)と申します」

あのパソコンショップで見つけた写真に写っていた女性に間違いなかった。

「あの、助けてもらえますか……刑事さん」

彼女の頰に伝った光るものが、この事件の真相を語るのか……それとも……。

事件5につづく